加島: 具体的な育成のお取り組みについて、教えていただけますか。
青木: まず、役員です。
以前であれば経営に近い人材は、組織の上に立つ者としての倫理観や教養、経営者の視点といったものを重視していました。もちろんそれも重要なのですが、今は自分たちの部下やチームを燃え立たせることができるかを、最重要事項にしています。
役員たちがまずそうでなければなりませんが、私たち現在の役員自身がまだまだなものですから、まず役員とその後継者を含む約100名に対してアセスメントを行いました。
オンラインサーベイと、外部の専門家によるインタビュー、さらに職場での360度評価を行い、チーム風土や本人のリーダーシップスタイルを、本人にも、その上司にもフィードバックしました。自分達もできていないことがたくさんあるということを役員クラスが自覚して、そこからスタートです。
加島: 組織の上位層から行っていく、という筋を通していらっしゃるところが素晴らしいですね。最近ではだいぶ抵抗感がなくなってきたとはいえ、役員に対してそこまでの施策を行うのには抵抗がある企業が多いと思います。
青木: 同じようなことを言われることはよくあります。確かに役員というポジションを、社員の「アガリ」のようにとらえている企業はまだ多いと思います。でもそれは間違いです。そのポジションの者がやらなければならない難度の高いミッションに、これからチャレンジしなければなりません。それが正しい姿であるはずです。
とはいえ、資生堂の場合は魚谷が最初に「僕もアセスメントを受けるよ」といったため、役員全員を巻き込んで始められたのかもしれません。魚谷と私はパイロット版を含めて2回、異なるアセスメントを受けました。かなり厳しいコメントもあり、悔しさを感じました。ですが魚谷は常に「資生堂の社長という仕事は自分にとっての成長機会だ」といいます。それに私は、大いに共感をしました。I believe what he believes.と素直に同調できました。
その後、「リーダーシップアカデミー」というグローバル共通の教育体系をつくり、開講しました。
「リーダーシップアカデミー」では、4階層に分けてプログラムを準備しています。自分が変わるということに関しては、どんな人であっても心理的なボトルネックもありますし、そのボトルネックは一人ひとり異なります。「ELP」「SLP Advanced」「SLP Basic」という3つの階層のプログラムでは、それぞれが自分のボトルネックに気づき、取り除いていくことを重視しています。そして、今まではあまりリーダーシップ開発の施策がなかった、入社3年以降から部下をもたないマネージャーまでを対象にした「フューチャーリーダープログラム」は、手挙げ式で参加することができ、リーダーシップアカデミーと同じようなアセスメントを受け、フィードバックを受けることができます。その結果によって、MBA留学やMOT、短期MBAのチャンスもあります。成長したいと思う人には、チャンスを増やしているのです (図)。

加島: 多様な教育プログラムを準備されているのですね。効果測定はどうされているのですか。
青木: これだけ予算をかけて行っているので、もちろん効果を問わなければなりません。ですが、設定したKPIが何ポイントあがったからOKで、上がらなかったらダメというものではないでしょう。世界中の若者が働きたいと思う会社になるという大事な目標が、ミッドタームで実現できるということが大事だと思います。